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○優先度で実現度高い総合計画                          青森県弘前市

1.視察の意図

私の愛読書、「公職研」という月刊誌。シリーズで「創造型行革に向けて」
というコーナーがあり、今年9月号に弘前市が取り上げられていました。
 タイトルが長いですが、
「施策優先度と、実効的で実現度高い総合計画」。リードの部分もまるごと
紹介させていただくと、話がより分かりやすいでしょう。
「施策の優先度と資源の集中」を通して、実効的で実現性の高い総合計画を
策定した弘前市。施策の優先度や、成果指標の設定の上で施した工夫など
“弘前型・行革”の組織戦略を紹介する」。
 記事を読み進めるうちに、ナマの担当者の説明を聞きたくなりました。

2.概要

 @特徴
 
  ・合併時の「新市建設計画」を継承
  ・市民にわかりやすく共感しやすい→市民参画
  ・施策の優先度と資源の集中→行政評価システムと連動
  ・成果状況の適切な進行管理ができる設計
  以上4つをポイントとして据えた。

 A総合計画の概要
 
  ・平成20〜27年度までの8年の計画。前期後期に分け、今回の優先度は
   前期を対象としている。新市建設計画とゴールを合わせている。
  ・優先度基準として5つの分野別政策と2つの仕組みづくり。
  ・その下に32施策、122基本事業、1700事務事業。
  ・1700事務事業を毎年評価。職員には不評。しかし来年度予算に反映。
  ・成果向上優先度はA、B、Cの3ランク、
   資源投下優先度は1、2、3の3ランク。でタテヨコに評価。
  ・たとえばA-1は最も重点度が高い。B-2ならばコスト注入を控え、現状成果を
   維持する、といった具合。C-3というのは後回しというより、ほんらい市が
   になうべきでない、と判断されるもの。市民の協力を得て行うものなど。
  ・判定は副市長を議長とした部長以上の策定会議で実施。点数化。最終市長判断。
  ・毎年の評価により、上向き、維持、継続の3つの矢印で表現。
  ・施策・基本事業、基本事業それぞれの「目標値」設定の手法を明確に定める。

 
 B計画策定までの流れ
 
  ・合併→基本方針策定→市民意識調査・意見募集
  ・市民懇談会設置。メンバー47名、うち公募7名。
  ・庁内に策定会議(素案)
  ・中間報告書公表、意見募集
  ・審議会設置。メンバー公募含む43名、6分科会。
   人数は県下他市よりも多い。
  ・審議会答申、市議会議決

 C進行管理ツールとしての行財政総合管理システム
  ・旧弘前市時代から継承。
  ・成果重視の行政経営
  ・市民にわかりやすく公表
  ・職員の創造力や政策形成能力アップを目指す
  ・アドバイザー会議。識者、市民等7人。辛口のチェック。
  ・A-1ランクなど力を入れているものが効果が上がっているのかもシビアに。
  ・達成状況一覧表。黒矢印は目標。右肩上がりの矢印にもかかわらず、
   白矢印は結果。これが横ばいなのはさらに検討。究明。
   それは不況の影響だった、など分析。
  ・悪くなったのか、それとも良くなる度合いが遅いのか、など詳細に。

3.感想

 「部長は重役。全体を見る目で」と、担当者。
 いただいた資料の余白に、力強く、メモしました。
 どんなに立派な指導者や政治家、構想を述べる学者がそろっても、実働のトップたる部長がどう取り組むかに、成否はかかっていると言っても過言ではないでしょう。市長ひとりがやれるものではありません。むしろ危険なことに、側近の動き次第でそれは生きたり死んだりするでしょう。成否は「部長力にあり」。私はそう強く感じました。
 総合計画の進行管理。わが丸亀市でも新市となって策定された総合計画には数値指標が用いられています。お話によると、全国自治体の6割がそのために評価システムを導入してはいるが、果たして実効性は、とシビアに問う必要がありそうです。
 市民意識調査のグラフを一瞥すると、弘前市の魅力の1番は群を抜いて「豊かな自然」。逆に欠点のトップは「働く場がない」「雪対策・除雪が不十分」の2者が拮抗。これを投影させた形で、施策の重要度がドットで落とされていきます。もっとも力を入れるところに、「雪対策」。しかし一方、C-3とされた中には「安全な暮らしの確保」という項目があります。それが後回し、どうでもいいという意味ではなく、ある程度、他市並みには整っているというものや、市主導というよりも市民との協働、あるいは国や県主体とすべきものがそこに含まれています。粘り強く、市民に納得してもらう必要があるのでしょうが、この数値やグラフ、また矢印の方向が、市民への説明のための非常に強力なアイテムとして機能することだけはまちがいなさそうです。「やります、検討します」の羅列ではなく、それは2番目、3番目と具体的に順列がつけられることで、「何故?」という市民の関心と、その先には理解と協力の意識が生まれるのではないでしょうか。もちろん、そこには市民と接する一人ひとりの市職員の方々の、自身の向上の姿がなければなりません。
 ここに恵与いただいた抜粋資料を拝見するだけで、いかに緻密に、精緻に理論構成と計測のものさしづくりに意を払ったかが伺えます。「弘前型」と、自信を持って語られるゆえんです。
 私たちはすでに総合計画の上を走っていますが、走りながら、自分の足腰、体力、スタミナをチェックする必要があります。ただ美々しいだけの冊子ではなく、市民の幸福実現のアイテムとしてそれが奏功するか、やはり運営する「人」にかかっているということでしょう。



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